『空の境界(上・下)』奈須きのこ

(講談社ノベルス)[★★★☆☆] ASIN:4061823612ASIN:4061823620
空の境界 上 (講談社ノベルス) 空の境界 下 (講談社ノベルス)

ちぐはぐな印象を受けた。
人の生死などの出来事に対する、キャラクタの心の動きの記述が、なんだか薄っぺらい。
理屈として間違っていないけど、「本当にそう思ったの?」とずっと感じ続ける。

ひとことでいえば、「総論と各論を取り違えてはいけない」ということか。

「敵だから倒さなくちゃいけない」と言葉にするけれど、自分がそう思っていないことに自分で気づいているのに無視しているすわりの悪さを感じる。この物語の主人公がどれも哀しいのは、それに気がついたときに、まず怒涛のようにつらい事がやってくるから、目をそらそうとしているからだろう。
ライオンに追いかけられたダチョウは地面に穴を掘って頭を突っ込むという。目を逸らしてもライオンはいなくならないけれど、それでも逃げ続けるという苦しみだけからは解放される……ということだろうか? それは望んだものなのだろうか?

連作短編集としての独立性を保たせるためか、各編の冒頭で自己紹介が入るのが気になった。
一節ごとに視点が移動するのは、個人的にはあまり良くなかったと思う。黒桐から見た両儀両儀自身の人物像は乖離しているはずなのに、同じ筆致・同じ尺度の上で書かれている。その結果、性格の多面性が失われたのは惜しい。

黒桐の調査能力が高い事は、かれが実はゴトーワードを操れるということかと思ったのだが?